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ヤビツギンラン [ランの仲間]

距のないギンラン
 緊急事態解除宣言後も特定警戒5都道県に居住するため,過疎地域住民でも6月19日までは自粛に徹すると決めている。花巡りは自ずと近くの丘陵に限られるが,今まで見落としていたものを発見する幸運に恵まれた。約3週間振りの投稿となるが,約1月前に出会った珍種を紹介したい。

 未だに盗掘が絶えないが,コロナ禍で人出が少ないことも影響して今年はギンランの個体数を数多く見かけた。5月上旬,近くの丘陵で数個体のギンランを見かけ,様子が異なることからじっくり観察した。距がないことから,一瞬クゲヌマランかとも思った。撮影したものを帰宅して図鑑で調べるとクゲヌマランの葉や距とは異なる。図鑑では「キンラン同様,稀に唇弁が花弁化した個体 var. oblanceolata N.Pearce & P.J.Cribb がある」と示されていた。
 花弁はほとんど開かないので,ピンセットで静かに開き,花弁化していること(写真D)が分かるように撮影した。その後,二人の方からヤビツギンランやツクバキンランの論文を提供していただき,本種の同定を確信した。
 唇弁が花弁化することをペロリア現象という。約40年振りに岩波の生物学辞典を引くと,次のように示されていた。 

正化(英 pelory,peloria) 語原はギリシア語でお化けの意。唇形花冠などのように相称面の少ない花が,相称面のより多い花(例えば放射相称花)に変化したとき,その花を指し,現象をペロリア化(pelorisation)という。<中略> 花の進化(相称面現象)の先祖帰りと解釈される。重力の影響を去れば生ずるもの(ヒガンバナ)や,栄養の過多によるものもあるが,多くは直接の要因は内部的のものらしく,株による固定的なもの(花弁5個同形となったホシザキユキノシタ),遺伝的のもの(グロキシニアの一変種)もある。100余属に例がある(藤田哲夫,1949)。
※写真は上から順にA~D(写真A,B:2020.5.12 写真C,D:2020.5.10)
yabitsuginran.jpgyabitsuginran2.jpgyabitsuginran3.jpgyabitsuginran4.jpg
ヤビツギンラン(ラン科)Cephalanthera erecta f. pelorica 矢櫃銀蘭
 本種は1981年神奈川県秦野市東地区で発見され,産地がヤビツ峠に近いことから新称として発表された。この産地の生育環境はコナラ‐クヌギ群集の古い二次林床で,キンラン属のキンラン,ギンラン,ササバギンラン,クゲヌマラン(?)の混生(柳川,1982),と報告されている。栃木県新産では,都市公園の植樹林下に見られる(髙島,2016),と報告されている
 筆者は2020年5月上旬,秩父盆地にある丘陵の4箇所(標高360~400m)で36個体が自生していること確認した。そのうち1箇所では29個体(花をつけた個体22個体)が群生していた。他の3箇所の自生地では付近にギンランが生えていたが,ここでは全てが距のないヤビツギンランであった。自宅から近いので何度も確認したが,花弁は開くことなく花期を終えた。
 撮影後1月を経過したが,多くの個体が結実していると思われる。図鑑等では草丈,葉の大きさや個数,花の個数などは具体的には未記載であるため,花をつけた個体について計測した。その概要を下記に示す。
 草丈:8.5~28.8㎝(平均値18.2㎝)
 葉の個数:2~5
 葉身長:2.5~6.9㎝
 葉身幅:0.8~2.8㎝
 花の個数:1~11

【参考文献等】
遊川知久,2015.日本のラン ハンドブック ①低地・低山編.初版.58.文一総合出版
山田常雄他,1977.岩波 生物学辞典 第2版.625b.岩波書店

柳川定春,1982.ギンランの一変異個体について.神奈川自然誌資料3:15ー16
髙島路久・栗原隆,2016.栃木県新産のヤビツギンランについて.
栃木県立博物館研究紀要.自然(33):29-31
伊藤綾乃・今村敬茨城県南西端でのツクバキンラン(ラン科)の分布の詳細.茨城県自然博物館研究報告.(21):69-73
早川宗志・末次健司・藤森祥平・設樂拓人・横山潤・遊川知久,2020.放射相称花をつけるギンランの新品種ヤビツギンラン(ラン科).植物地理・分類研究.71(2):163-169


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