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キイジョウロウホトトギス

固有種を訪ねる
 45年前,奈良から南紀へ旅をしたことがある。十津川村から瀞八丁,新宮から海岸線を南紀白浜までのコースと記憶している。特に,中央構造線の一部で谷深い広大な紀伊山地には,奥秩父を思わせる隘路が当時随所で見られた。その頃は,紀伊半島の地質により関心を持っていたが,これがこの植物を知るきっかけとなった。
 自生地の環境は紀伊半島の湿り気の多い崖と聞いていた。崖の代表格が天然記念物「一枚岩」のようである。特異な岩壁の形成は,降水量の多さと地質がその要因といわれている。この地方には火山がないのに温泉があるのは,紀伊半島南部地下深くには未だ冷え切っていないマグマがあるというのだ。調べていくと「熊野カルデラ」という用語が頻繁に取り上げられている。そこでは約1500万~1400万年前に地球環境にも影響を及ぼすほどの大噴火があったという。膨大な噴出物が堆積したが,その多くは雨水によって浸食された。そして残ったものが「古座川弧状岩脈」と呼ばれている。落差日本一の那智滝は,浸食に強い熊野酸性火成岩類・流紋岩と比較的柔らかい熊野層群(堆積岩)の地層の境界に形成された滝である。(南紀熊野ジオパークHP参照)

 ジョウロウホトトギス類は湿り気の多い崖に生え、茎が下垂、黄色の花を下向きにつける。本種を含めて3種1変種があり,いずれも絶滅危惧に指定されている。キイジョウロウホトトギスは、この類の中では最も広範囲かつ多くの個体が自生し,大型で丈夫といわれている。上記岩脈以外の紀伊半島の岩壁にも分布していたが,自生地は激減した。園芸目的の採取,崖の崩落,崩落防止工事などが,その原因とされている。
 紀伊半島南部では石垣などに移植されて保存に努めている地域もある。また,ジョウロウホトトギスとして園芸用に流通している多くは本種と思われる。いずれも,今年の気候の影響で花つきが悪いと聞いた。自然環境が保たれたこの自生地では,そのような状況とは全く無縁で見事な大群落を形成していた。花は想像以上に大きくて,まさに和名に相応しい花である。
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キイジョウロウホトトギス(ユリ科)Tricyritis macranthopsis 紀伊上臈杜鵑
 紀伊半島南部に分布,山中の湿り気のある崖から下垂する多年草。丈夫な根を多数出して岩壁に着生する。茎は垂れて長さ40-80㎝,多くの節をもつが分枝することはない。茎上部を除いて毛はない。葉は互生,披針形で長さ12-18㎝,先は尖る。葉の基部は深心形,両側に耳片があって茎を抱く。四国及び九州に分布する類似種ジョウロウホトトギスは,毛のある茎,浅心形の葉の基部,片側のみ耳片,花被片の斑点の様子など,相違点もある。花期は9-10月。茎頂に1-2個,上部の葉腋に1個の花をつける。花被片内部にある茶褐色の斑点はジョウロウホトトギスに比べて密,先端部には見られない。花はユリ科特有の花被片6枚からなり,外花被片3枚には丸いこぶ状の距(基部)と棘状突起(先端部)がある。花被片の長さは約4㎝。 (2020.10.20)

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コメント 2

3*R

綺麗ですね。
by 3*R (2020-11-03 11:55) 

hanameguri

3*Rさんコメントありがとうございました。
旬な花と最高の撮影条件に恵まれました。
by hanameguri (2020-11-04 09:44) 

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