SSブログ

サクライソウ

摩訶不思議な植物
 分類学上,様々な議論を経て今日の位置づけとなった植物である。写真Aは沢沿いの落葉常緑混交林下で湿潤な環境に生育していた。一部にはミズゴケやバイカオウレンなども生えていた。写真Bは緩やかな尾根に通じる落葉広葉樹林下の山腹に群生していた。絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されているが,想像を絶する群生である。両者の環境の共通点は,北東向きで朝陽だけが当たる樹林下であることと,十分な孔隙(隙間)がある土壌であることの2点である。ふかふかな土で踏み込むのを躊躇うほどだ。菌従属栄養植物であることから土壌微生物の豊かさを思わせる。林内の菌類が放つ「香気」を強く感じ,何ともいえない心地良い匂いが立ち込めていた。前年の植物体がまだ残るような個体(写真B)は意外に多い。極細の淡黄色の茎は堅く腐植し難い感じだ。

 別の目的でこの付近を訪れた時,このサクライソウ自生の存在を教えていただいた。生涯見ることはできないと思っていたが,奥深い菌従属栄養植物の世界を体感することができた。感謝しなければならない。
 ※ 写真は上から順にA~D
sakuraisou.jpgsakuraisou2.jpgsakuraisou3.jpgsakuraisou4.jpg
サクライソウ(サクライソウ科)Petrosavia sakuraii 桜井草
 本州(長野県,岐阜県,石川県,福井県,京都府)・奄美大島でごくまれに見出される。絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されている。常緑広葉樹林,落葉常緑混交林,針葉樹林などの林下に生える菌従属栄養の多年草。高さ7-20㎝,淡黄色の茎は細くかたく,下部に鱗片葉が互生する。鱗片葉は広卵形,膜質,長さ2-5㎜。花期は7月頃。茎頂の総状花序に5-20花が着き,花は径3.5-4㎜,花被片は6個,卵状3角形で,下部が漏斗状に集まり,内片は長さ1.5㎜,外片はその半長。内片の基部に1個の腺がある。雄蕊は6個,内片よりやや短く,葯は卵形。子房は上位,雌蕊の花柱は短く,柱頭は頭状,心皮葉は3個,下部だけが合着し,内に多数の胚珠がある。蒴果は長さ3㎜,種子は楕円形で長さ0.5㎜,縦条がある。
 和名は,1903年岐阜県恵那山麓で桜井半四郎によって発見されたことに因る。牧野富太郎はこれを新属新種と考え,岐阜県出身の植物学者三好学を記念して,Miyoshia sakuraii Makino と命名したが,この発表後サクライソウはマレー半島に産するProtolirion 属のものと分かり,学名をP. miyoshia-sakuraii Makino と改めた。サクライソウの種形容語の Miyoshia-Sakuraii への変更は命名規約上無効であったため,最初に発表された最初に発表された sakuraii が用いられている。
 サクライソウ属の分類学上の位置は論議の的であった。1903年に牧野富太郎はユリ科ソクシンラン属に近い新属としてサクライソウ属 Miyoshia をたて,その所属を新科サクライソウ科Miyoshiaceae がよいだろうとした。のちに Miyoshia は Protolirion 属,さらに Petrosavia 属と変更された。所属もユリ科(広義),キンコウカ科,またはシュロソウ科に分類され,あるいは1属でサクライソウ科 Petrosaviaceae とされてホンゴウソウ科の近くに置かれてきた経緯がある。AGPⅢ分類体系では従来サクラソウ属とされていたサクライソウ科にオゼソウ属が加わり,新たに2属で構成される科となって,1科だけで単子葉植物 Monocots サクライソウ目Petrosaviales となった。(2021.7.30)

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。