ハマナデシコ
ソナレセンブリを撮影して満たされた気持ちで海を眺めていると、少し離れた所にピンク色の花を見つけた。この季節に何だろう、と思いを巡らせ近づいた。幸運にも写したい花の一つであった。てっきり夏の花と思っていたが、帰宅後に調べてみると花期は長く、6月-11月と記されていた。思い込みは恐ろしいものである。花は終わりに近いが、十分鑑賞に堪えうる株であった。この花の色はデジタル写真では中々再現できない。実際にはもう少し赤みがある。海岸に自生する植物の特徴で、葉は厚く光沢がある。海岸の崖や砂地に自生しているが、切り花用として栽培されている。山の涼しさに憧れ、夏の海辺は苦手とする私には写す機会はないと諦めていた。
ソナレセンブリ [リンドウの仲間]
センブリ [リンドウの仲間]
ツメレンゲ
イヌセンブリ [リンドウの仲間]
植物の名前に「イヌ」がつく場合、犬とは無関係のものが多く、「役に立たない」という意味でつけられたものがある。薬用に用いられるセンブリは、センブリ末、苦味チンキの原料となるが、本種は全草に苦味がなく薬には用いられない。環境の変化で自生地が減り、絶滅危惧Ⅱ類(環境省)に指定されている。残念ながら本県では自生地が確認されていない。
マツムシソウ
東海地方の花巡り5
東海地方の花巡りの最終の記事となる。例年になく開花が早いことから、最後は木曽川河畔のキイイトラッキョウと期待を抱き、生育に適した環境を探した。予想した二つ目の場所でキイイトラッキョウを見つけたが、開花までには10日ほどかかる状態であった。ほとんどの蕾が緑色で色づいたものはなかった。自然は人間の思い通りにはならない。場所が分かっただけでも幸運で、楽しみが一つ増えたと思えばよい。
早々に切り上げ、東濃地方の里山に移動して撮影したのが左の写真である。新城市の蛇紋岩の山で咲き終わりのミカワマツムシソウ(マツムシソウの変種)を見ていたので、もしやと思い確認した。花や葉の特徴から一般的なマツムシソウであった。個人的なイメージとして晩夏から秋にかけて高原を彩る花と思っていたが、貯水池の斜面という思いがけない場所で見られた。周辺には、シラヒゲソウ、シコクママコナなどもあり、十分楽しめる場所である。
(2016.10.13撮影)
スズカアザミ [キクの仲間]
シラタマホシクサ
東海地方の花巡り3
3番目も湧水湿地に自生する植物で、ミカワシオガマと同じ場所で観察したものである。
花茎を長く伸ばし、まとまって咲くさまは「白玉星草」の名にふさわしい。ホシクサ科の植物で、湿地に生える無茎の1年草。葉は線形で長さ14-20㎝、幅1-3㎜。花茎は1-5個あり、髙いものは20-40㎝、4肋で少しねじれる。頭花は球形で6-8㎜。本州(静岡県・愛知県・三重県)の伊勢湾の北部に面する地方に集中しており、ほかではみられないのは興味深い。(抜粋「日本の野生植物」:平凡社)
現地の方から「花茎が稜のあるらせん状をしていることで強度が保たれている」という説明があった。単なる一本の花茎ではなく、細部にわたって生き残る仕組みを備えているのが自然の驚異である。
東海丘陵要素植物は、主に東海地方(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県)の丘陵地帯の湿地やその周辺の痩せた土地などに生育している植物です。これらは祖先となる種がこの地方独特の地殻変動により、特有の進化を遂げたものや古い時代から生き残ってきた植物です。これらの植物は、他の植物との競争に弱く栄養が乏しい場所や日当たりのよい場所によく見られます。またこれらの世界でこの地域でしかみられない貴重な植物たちであり、国や県の絶滅危惧種に選定されているものもあります。(抜粋「東海丘陵湧水湿地群」:豊田市環境政策課)
東海丘陵湧水湿地群のような小さな湿地は、環境の変化により短時間で消失する。関東でも谷津、谷戸などの地名が残っている。丘陵地が浸食されてできた谷間の低湿地ことで、同様な環境と思われる。湿地は、開発による環境破壊、耕作放棄などによる環境悪化で減少の一途である。貴重な湿地を訪れて、地元市民の意識の高さとそれに応える行政の力を感じた。貴重な植物に出会った感激とともに、様々なことを考えさせられた花巡りとなった。 (2016.10.12撮影)
ミカワシオガマ
東海地方の花巡り2
2番目の紹介は湧水湿地の植物である。
ミカワシオガマはシオガマギクの変種で、シオガマギクの葉が茎の下部で対生、上部で互生であるのに対して、ミカワシオガマは全て互生である。花冠上唇の先がさらに短くつまったようになるのが特徴である。名のとおり愛知県の一部のみに分布する。撮影地は「東海丘陵湧水湿地群」(豊田市)としてラムサール条約湿地に登録されている一つである。普段は自然環境保護を優先して立入りを制限しているが、定期的な観察会や一般公開を行っている。地元市民が中心となり、夏は外来種を手作業で抜き取り、冬は富栄養化を防ぐために湿地全体の草刈りを行い、それらを湿地の外に運び出している。その他にも野生鳥獣の侵入防止、湧水の水位や流量の監視など、湿地の維持保存に努めている。(2016.10.12撮影)
エンシュウハグマ [キクの仲間]
東海地方の花巡り1
8月以降、南アルプスや八ヶ岳のリンドウ科の花巡りを予定していたが、不順な天候を気にしているあまり季節は進んでしまった。いつもの秋とはいかないが久しぶりの花巡りが実現した。関東から富士山麓を経て遠州、東三河、東濃を気ままに巡ってきた。この地方は糸魚川静岡線や中央構造線が走り、地質が複雑な地域である。関東では見られない植物があり、その分布から興味をもっていた地域である。また、この地方の丘陵部には湧水のある斜面があり、特に開発から逃れた湧水湿地では貴重な植物を見ることができる。5回に分けてこの地方の植物を紹介したい。
最初は、エンシュウハグマ。和名は「遠州白熊」と表記する。「遠州」は静岡県西部。「白熊」は中国産のヤクの尾の白い毛のことで、払子、槍、兜、旗などの飾りに用いた。これ似ていることと自生地が名の由来といわれる。分布は静岡県と愛知県。以前、ササユリを見るためにこの地に訪れた時、深く裂けた珍しい葉を見つけた。これがきっかけで花の時期に訪れたいと願っていた。花は上から順に咲いてくるようだ。終盤の花が多かったが、何とか間に合った。淡紅色を帯びた花は、線香花火を思わせる特徴的な形だ。
(2016.10.11撮影)
ユウガギク [キクの仲間]
9月は記録的に日照時間が少なかった。山ではキノコなどの菌類が一際目立っていた。天候がようやく落ち着き、光合成するには十分な日照となってきた。
ユウガギク(キク科)Aster iinumae 柚香菊
秋はキク科の季節でもある。ここ数年、日本各地のキクの仲間を見る機会があるのだが、中には分類の難しいものがある。特に、ヨメナ属Kalimeris やシオン属Aster は図鑑で調べたり、教えていただいたりしても覚えられない。キク科は最も進化した植物群の一つといわれ、世界各地に広く分布している。一説には、日本の野生種は350種、帰化植物と合わせると500種にもなるという。
写真はユウガギクと思われるが自信はない。ごく一部には、淡青紫色の株もあったのでノコンギクと思ったが、目立たない冠毛、茎の上部でよく枝分かれすること、葉の両面の短毛、などから判断した。関東以北の暖地に分布するカントウヨメナとも比較したが、葉の薄さからユウガギクとした。分布は近畿地方以北の本州で和名は柚香菊。柚子の香りのある菊ということだが、何度も嗅いでも私には匂いがしない。
(2016.10.7撮影)
ツルドクダミ
ようやく爽やかな気候が訪れたので県内の平野部(関東平野)に出かけた。秋になると気になっていた植物がある。それは以前より殖えて、道路の法面から田畑周辺の低木、さらには空き家の庭の植木までが覆いつくしている。元の木が分からなくなるほど蔓を伸ばして一面に花をつけている。撮影できる場所を見つけて写真に収めたが、下から覗くと茎の基部は木質で太さ1㎝程あった。
花のつくりからタデ科の特徴があり、凄まじく繁殖する様子は帰化植物の感じがする。帰宅途中、私の住む地域でも数箇所で確認できた。
図鑑には、中国原産で広く日本に帰化。江戸時代、薬草として中国から取り寄せ、小石川で栽培された記録が残っていると示されていた。ドクダミとは全く別の科の植物である。漢名は可首烏(かしゅう)。