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クロヤツシロラン [ランの仲間]

2年越しの撮影
 2016年11月7日、偶然見つけた果実からこの植物とのつきあいが始まった。花は地表面に咲き、保護色で見つけにくいという予備知識はあった。翌2017年9月中旬からこの場所を観察してきたが、ついに花を見つけることができなかった。ところが、11月に自生地を訪れると数十個の果実が伸びているではないか。改めて見つけにくい花であることを認識した。各個体の場所を記録し、主に自生する7箇所に独自の目印をつけて2018年9月を待った。2018年9月22日、やっと1つの茎頂に数個の蕾(写真1)を見つけた。この茎頂に注目して数日おきに撮影した。写真4を除き、他の写真は同一茎頂のものである。この自生地では、10月6日までに3箇所で開花を確認した。茎頂につく蕾には開花順序があり、1つの花の寿命は約2日と思われる
自生地の環境は以下のとおりである。
◯幅員約2mの舗装道脇にあり、日照は少なく、湿度が高い。
◯道路沿いにはスギやヒノキの並木、これに落葉及び常緑広葉樹が混じる。
◯表土は小礫混じり、腐葉等の供給で菌糸も発達している。
◯付近には荒川の支流があり、小渓流を形成している。

※写真は上から1~6
写真1:茎頂の先にできた蕾 (2018.9.22)
写真2:最初に開花した花 (2018.9.26)
写真3:最初の花は萎みはじめ、次の花が開花 (2018.9.28)
写真4:花の拡大、中央部右側には足3対の白ぽい生物がいる。(2018.10.1)
写真5: 最終の花、右の萼片外側にはハエのような茶色の昆虫2匹がいる。萎んだ花3個が台風24号の強風で花柄から欠落。(2018.10.1)
写真6:果期のはじまり (2018.10.6)
koroyatsushiroran20180922.jpgkoroyatsushiroran20180926.jpgkoroyatsushiroran20180928.jpgkuroyatsushiroran_up.jpgkuroyatsushiroran20181001.jpgkuroyatsushiroran20181006.jpg
クロヤツシロラン(ラン科)Gastrodia pubilabiata 黒八代蘭
 本州(関東地方以西)、四国、九州に分布、おもに暖温帯の常緑広葉樹林、竹林、スギ植林などにはえる葉緑素をもたない菌従属栄養植物。茎の高さは2-3㎝、膜質鱗片がある。花期は9-10月、花序は短縮し、茎頂から1-8個の花を束生状につける。花は紫色を帯びた褐色、花柄は長さ約2㎝、花は鐘状の筒形、花筒の長さ約10㎜。萼片と側花弁は合着して筒状、先は3裂して平開する。唇弁の色はより濃く、牙状の突起があり、唇弁基部には1対の球体がある。葯は中央部で黄白色に見える。結実すると花柄が伸び、40㎝に達することもある。
 本種は高知県で発見され1981年新種として発表された。四国の他県でも2007年に新しい産地が確認された。その後、次々に新産地が報告され、福島県でも2015年に発見されている。今後刊行される図鑑では「東北地方南部」と表記される可能性が高い。関東地方内陸部では2005年に栃木県の産地が報告されている。埼玉県植物誌(1998年版)では産地の記載はなかったが、私の居住地周辺ではこの場所を含め3箇所で自生を確認した。
 発見以来、産地が北上している。その要因として地球温暖化が考えられるが、人の目につきにくいことも一因であろう。環境省のカテゴリで絶滅危惧ⅠBに指定されていた時もあったが、現在では準絶滅危惧にも入っていない。研究者の詳細な報告を待ちたい。
【参考文献等】
澤完.1980.高知県中部のラン科植物.高知大学学術研究報告 自然科学(29)
福永裕一他.2007.愛媛県新産クロヤツシロランについて.愛媛県総合科学博物館研究報告(12)
福永裕一他.2008.四国におけるハルザキヤツシロラン,アキザキヤツシロラン,及びクロヤツシロランの分布,分類8
根本秀一他.2017.東北地方新産のクロヤツシロラン,分類17(1)
佐竹義輔他編,1982.日本の野生植物 草本Ⅰ 単子葉類 平凡社
大橋広好他編,2015.改訂新版 日本の野生植物1 平凡社


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コメント 2

ごん

hanameguri さん、こんばんは
良く頑張りましたね。写真も明るくてとても良いです。
病みつきになるのであんまりほめたくはありませんが
6図ですが今季は嵐が多いためか果実二つしか残りませ
んでしたね。しかしこれも落下しそうですね。
4図の白い虫はトビムシでしょうきっと、受粉に
関係はないですね。

自分で種子を蒔くには完熟して割れる寸前位が良いですね
挑戦するときはお手伝いしますよ。

余談ですが澤完先生(故人)の息子さんの熊大教授の澤先生や
福永先生も大変熱心ではるばる見学に来られました。
澤完先生がクロヤツシロランの命名者ですから当然ですがです。
根本先生は私と同じ福島県出です。

腐生ランは野生ランと云うより共生菌とのお付き合いですので
根負けすると一巻の終わりですね(笑)。
by ごん (2018-10-12 19:28) 

hanameguri

コメントありがとうございます。
お陰様でやっと蕾から開花までを観察できました。
本当に見つけにくい花ですね。

野外での観察だけでなく栽培も行っているので、熟知していらしゃいますね。ご指摘の通り残りの果実2個も最後には落下しました。

私にはまだまだ見てみたい植物がありますので、クロヤツシロランだけに没頭することはないと思います(^0^)
それに根気強くありませんので・・・
自宅近くに生えているので観察は継続するつもりです。今後もよろしくお願い致します。
by hanameguri (2018-10-12 22:23) 

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